コロナ終息後に懸念される感染症 

大阪大学名誉教授 生田和良

現在の感染症対策は、世界中で新型コロナウイルスへの対策一色になっているが収束後は今まで鳴りを潜めて、随所で状況を伺っているいろいろな病原体が暴れまわることになるだろう。

この地球上で重要な感染症は新型コロナだけではないことは明らかであり、ほとんどがワクチンや治療薬が開発されていない感染症である。たとえワクチンや治療薬が開発されていても、世界にはその入手が困難な国が多い。しかも、熱帯地域などの途上国で蔓延している感染症の多くは、先進国では問題にならないことから、その対策がおろそかにされている。これらは、「顧みられない熱帯病(NTD, neglected tropical diseases)」と呼ばれているもので、デング熱や狂犬病などのウイルス感染症や、多くの細菌や原虫・寄生虫感染症が対象(17疾患; 表1)(参考資料1)になっている。

エイズ、SARS、鳥インフルエンザなど、人間社会に突然現れた感染症(人間が新種と認識したもの)の多くは野生動物の間で蔓延しているものであり、何らかの原因で人間と野生動物の間の壁を通過したもので、「新興感染症」と呼んでいる。さらに、過去に大きな問題となっていた感染症で一旦は問題とならない程度にまで対応できていたものが、再び問題となっている感染症を「再興感染症」と呼んでいる。「再興感染症」にはデング熱や狂犬病などのウイルス感染症、結核などの細菌感染症、マラリアなどの原虫・寄生虫感染症がある。特に、エイズ、結核、マラリアは、世界の三大感染症と呼ばれており、世界の低・中所得国を中心に蔓延していて、毎年多くの人が命を落としている。

実際、新型コロナが収束し、インフルエンザや風邪のウイルスの仲間入りを果たしたとして、次にはどんな感染症が顔を出すと考えられるのか。ここで、世界保健機関(WHO)は「麻しん」に警鐘を鳴らしている(参考資料2及び3)。新型コロナが発生した2019年まで年々麻しんの患者数は増えていた(図1)が、2020年以降減少している。「麻しん」は空気感染で広がっていく典型的なウイルス感染症で、世界的にもなかなか根絶が難しい。しかし、「麻しん」には生ワクチンが存在し、2回の接種を受けていればまず感染しない。ワクチンが開発されてから数十年も経っているが、その有効性はほぼ変わらず、新型コロナウイルスのように効きの悪い変異株の懸念がない。2015年、WHOの西太平洋地域事務局から「日本は麻しんの排除状態にある」と認定された。

しかし、今なお麻しん流行国からの輸入感染症として持ち込まれ、もしくは持ち帰られたウイルスによって、数年ごとに大流行している(図2)。この流行を引き起こしている感染者の多くは、2回のワクチン接種を受けていない人たち(ワクチン接種を受けたかどうか覚えていない、または1回しか受けていない、まったく受けていないなどの人たち)である; 図3)。新型コロナ発生の2020年以降、わが国を含め、世界的に麻しん発生数は見事に減少している(参考資料2及び3、図2)。近い将来、経済活動が活発になれば渡航、来日する人たちが急激に増えることが考えられる。そうなると、容易に麻しんウイルスが日本に上陸し、免疫が不十分な人たちの間で広がっていくことが想像できる。

「ワクチンで防げる病気(VPD, Vaccine Preventable Diseases)」には、世界的にユニセフやWHOなどにより大規模な予防接種キャンペーンが繰り広げられていたが、新型コロナが発生して以来、その多くが中断しており、日本においても麻しんも含めてVPDワクチンの接種率が低下している。VPDワクチンの多くは小児の定期接種になっており、その接種率の低下が懸念される。麻しんについては、小児が罹患した場合、有効な抗ウイルス薬がなく、死に至ることもある。感染した人と接触した場合(濃厚接触者となった場合)には、接触後3日以内であれば直ちにワクチン接種することが勧められている。3日が過ぎてしまっても、接触後4日~6日までであれば、発症を予防できる可能性があるとして、献血血液から製造されたイムノグロブリン製剤を投与することが勧められている(参考資料4)。

★今回で「生田先生のコラム」を終了させて頂きます。

ご愛読ありがとうございました。      ViSpot

ViSpotへの委託試験のご相談はこちら

お問合せ/ご相談